【書評】ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業

書評
11 /02 2010
少し前に出た『これからの『正義』の話をしよう』と、最近出た『ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業』。
サンデル先生
この2つの大きな違いは、まえがきにも書いてあるのですが、『これからの~』はオバマ政権下、『ハーバード~講義録』の方はブッシュ政権下で書かれていることです。

例えば、

暴走する路面電車
 
 あなたは路面電車の運転士で、時速60マイル(約96キロ)で疾走している。前方を見ると、5人の作業員が工具を手に線路上に経っている。電車を止めようとするのだが、できない。ブレーキが利かないのだ。頭が真っ白になる。5人の作業員を跳ねれば、全員が死ぬと分かっているからだ。
 ふと、右側へとそれる待避線が目に入る。そこにも作業員がいる。だが、1人だけだ。路面電車を待避線に向ければ、1人の作業員は死ぬが、5人は助けられることに気づく。
 どうすべきだろうか?

この問いは、どちらの本にも書いてあります。

これに対する答えとして、特に『ハーバード~講義録』が興味深いです。
『講義録』によれば、これに対するハーバードの学生の大半は、脇に逸れようとする、つまり5人ではなく1人をひき殺す方を選択しています。
そして、ある女子学生と男子学生についての解答が載っており、

女子学生1 1人を殺せばすむところを、5人も殺すのは正しくないからです。

サンデル  1人を殺せばすむところを、5人も殺すのは正しくない(一同笑)。確かに、いい理由だ(一同笑)。他には?みんな、この理由に賛成かな?

男子学生1 9.11同時多発テロ事件と同じです。ワシントンに向かった飛行機の乗客は、地上で犠牲になる人より、数が少ない自分たち乗客が犠牲になることを選んだから、ヒーローなんです。 

9.11の直後に、ハーバードの学生がこのように考えていることが興味深いです。
どういう事かといいますと、ハーバードの学生ですら9.11ショックの大きさがゆえに、利用可能性ヒューリスティックスにより功利主義的な考え方になっているのではないか?と。
優秀な人ですら、その思考は社会背景の影響を色濃く受けるのかも知れません。

偉そうなこと言えませんが、その構成員が優秀であろうがなかろうが、社会は議論を通して作り上げられていくものなのでしょう。
そういった議論のための参考文献として、とても面白い本だと思います。

『講義録』には、今年の夏に東大で行われたサンデル先生の講義も収録されています。

『オバマ大統領は、原爆投下を謝罪すべきか?』
『イチローの年棒は高すぎる?』
『東大の入学資格をお金で買えるか?』 

など、聴衆が白熱しやすいテーマを持ってくる辺りは流石ですね。
東大の白熱っぷりも、ハーバードに負けてないですよ!


追記

サンデル先生の思想の立ち位置を知るための本として、『集中講義!アメリカ現代思想~リベラリズムの冒険~』もお勧めです。
アメリカ現代思想
第二次世界大戦後に、リベラリズムとマルキシズムが対立する中で、米国がベトナム戦争で敗北。
リベラリズムが迷走する中、リバタリアニズムとコミュニタリアニズムが登場して3すくみの状況に移っていく、といったことが解りやすいです。

3冊(4冊)とも『~イズム』のカタログとしても、便利です。
世の中、イズムで解ることばかりではないかも知れませんが、知っておいて損はないとも思います。




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コメント

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まさに「これから正義の…」を読んでいる最中です。
道徳の問題はいろいろの解釈があるだけに足の裏の米粒のようにすっきりしないところがありますね。
とても参考になりそうです。

足裏の米粒は古代ギリシアにも遡るようですから、簡単には答えが出せそうにありません。
それでも、一応答えらしきものを出して、納得するしかないんでしょうね。